アーカイヴ:肖像画

アーカイヴ:肖像画

美術館に入ってから
私は自分の肖像画を探した

美術館に決められた導線を
狂い無く順序よく進みながら

その展覧会に名前は無い
展示されている作品も様々だ
時代もばらばらのようだ

とにかく私は
その美術館で私の肖像画を探す

もっと正確に言えば
私を探しているのだ

本当の私の肖像画はどれだろうか
この印象派風のものか
はたまたどれが目か鼻か口かわからないこの作品か

ひとつひとつ吟味していく
しかしそれはあくまでも導線からはずれることはなく

しかしいくら探してもそれはみつからない
どれも私の肖像画らしいいし
また、どれも私らしくない

本当の私とは何なのか
それに私は気づいていない
いや、本当の私など存在するのだろうか

存在しないものを必死でさがしても
みつかるはずはない

なにが真実で
なにが虚偽なのか
一体誰に分かるのだろう

美術館には私以外に客はいない
しんと静まりかえっている
その静けさが私を不安にさせる

いっこうに私の肖像画は見つからない
もしかしたらもう見つけているのかもしれない
ただそれを見逃しているだけで

ある展示室に入ると
そこには鏡が一枚おいてあった

鏡に私が鮮明に映る
鏡が私をうつしだす 

結局その展示室でも私を見つけられることはできなかった

やがて美術館は閉館時間を迎える

私の肖像画はどこにあったのだろうか
私はどこにいたのだろうか

そこには
真と偽の境を溶解する空気が流れ
真実をはかる天秤はすでに壊れ
ただ、見せかけと化した何者かが漂っていた

2010-04-29 23:14:42